目尻切開やっても変らないって本当?
目尻切開という手術は「やってもあまり変わらない手術」という評価が世間一般にはあるようです。
実際、過去にこの手術を受けた経験のある方の中にも、「手術したけど、あまり変化を感じない。」とか、「以前と変わったのは分かるけど、期待した程ではない。」とおっしゃる方がたくさんいます。
では、なぜ目尻切開にはこういったネガティブな評価が多いのでしょうか?本当に変化がそれほど無いのでしょうか?
目尻切開と目頭切開の差
目尻切開と言う手術は、その名の通り「目尻、つまり目の外側を切開して外(側方)に向かって目を大きくする手術」です。
同じような考え方で、内側に目を広げる手術を目頭切開と言いますが、この二つの手術は名前こそ一字違いですが、実は全く違う手術です。
目頭切開をされた方は、程度の差はありますが、まず術後変化を認識されます。
この理由は、目頭自体の構造にあります。目頭側には、白目の内側に涙丘というピンク色の粘膜があり、東洋人の多くは、この部分の一部(もしくはすべて)が蒙古ひだという皮膚が作る膜で隠れています。これを切開し、隠れていた涙丘を露出するのが目頭切開という手術です。
つまり、もともと目頭には蒙古ひだで隠されている部分があるため、これを露出する事によって大きな変化が得られるという事です。
それに対し、目尻には、蒙古ひだやそれによって隠される涙丘のような構造はありません。
では、目尻側はどういった構造になっているのでしょうか。
目尻の一番外側を外眼角と言います。
ご自分の目尻触っていただくと分かりますが、外眼角のすぐ外には骨があります。
これは眼を囲む眼窩骨で、この外眼角と眼窩骨の距離は2から4ミリ程度しかありません。
この部分の皮膚の直下には、眼球との間に小さなポケット(結膜円蓋部)があります。
ポケットと言っても、眼球と皮膚の裏側の粘膜は通常接しているので、普段からそこに大きな空間が存在している訳ではありません。
自分で目尻を外に引っ張っていただくと、このポケットが確認できます。
このポケットを覆う皮膚を切開して隠れている白目を出すのが目尻切開です。
ただし、先ほどもお話ししたように外眼角と眼窩骨の間は非常に狭く、当然このポケットの幅もごくわずかです。つまり、このポケットを開放しても、それによって見える白目はほんの少ししかないということです。
一つ目の答えが見えてきましたね。そうです。元々隠れている部分が大きい目頭に対し、隠れている部分が少ない目尻切開は、目頭切開ほどの変化が無くて当然なのです。
因みに、元々蒙古ひだが無い西洋人であれば、目頭切開してもあまり変化は期待できません。そういう意味では、目尻切開はある意味西洋人に目頭切開をするような治療と言えなくもありません。
では、シミュレーションで検証してみましょう
シミュレーションを使って目尻切開を再現してみましょう。まず、アップでお見せします。左は、シミュレーション前、右が後です。
如何ですか。けっこう開いていますね。明らかに窮屈だった目尻が外側に広がったのが分かります。
術後の充血や浮腫や傷周囲の赤みといった修飾の無い、形状の違いだけのシンプルな手術前後の比較をしていただきたかったので、あえてシミュレーションにしてみましたが、実際の手術での平均的な変化に近いと思います。
今度は上がシミュレーション前で下が後です。
おや、なんとなく前後の写真の差が分かりにくくなってしまいましたね。
では、さらに遠景にして、顔全体で確認してみましょう。
アップではあれほど大きく変わっていたはずの目尻の違いがほとんど分からなくなってしまいましたね。
この原因はいくつかあります。
一つには、目尻切開で広げる部分は、元々周囲より奥まった深い谷間になっていて、切開した部分が分かりづらいことがあります。人によっては既に術前からこの谷間が目の一部に見えていることもあります。
二つ目は、この部分が上まぶたのまつ毛や皮膚で隠れやすいということが挙げられます。特に大きなつけまつ毛をされているとほとんど隠れてしまいます。
それ以外でも、元々アイラインやアイシャドウなどで、目を外側に大きく見えるようなメークをしている方はにとっては、目尻切開で広がった部分は元々手術前から目尻に見えていた部分であるため、変化をあまり体感できません。
つまり、二つ目の理由をまとめると、
“目頭切開などに比べ、目尻切開で広がった部分は見えにくいためその効果が分かりにくい”
という事です。
では、目尻切開はあまり意味の無い手術なのでしょうか?
いえ、そんなことはありません。
ただし、いくつかポイントがあります。
そのキーとなるのは「適応の見極め」と「他の治療とのコンビネーション」です。
まず適応についてですが、目尻の円蓋のポケットが元々小さい方は、切開してもそれ以上は広がらないので大きい変化は望めません。
これは、ご自分で目尻を外に引っ張っていただければ確認できます。引っ張って露出した部分が白目ではなくすぐに粘膜になってしまう方は、適応がありません。
出来れば最低でも1.5ミリ以上は白目が隠れていないと、手術しても効果が認識できないと思います。
目尻切開をした後の目尻の広がり方には、タイプがあります。
- 目尻切開をするだけで、横方向だけでなく上下にも目尻が広がって見えるタイプは、当然見た目の変化も大きく、この治療に向いています。
- 切開してもあまり上下に広がらず、目尻に狭い隙間が出来るだけの方、特に目尻の切開部分が元々見えにくいタイプの方は、ほとんど効果は認識できません。
2.のタイプの場合は、どうしたら良いのでしょうか?
これが先ほどお話ししたもう一つのキー、つまり「他手術とのコンビネーション」です。横にしか広がらないものを上下に広げて見せるためには当然、上下方向に引っ張る必要があります。
この手術は、「グラマラスライン手術(下眼瞼下制術)」と言われるもので、下まぶたのラインを下げることを目指す治療です。
これ自体が下方向に目を大きくすることを目指す治療ですが、目尻切開と組み合わせる事で、相乗効果を目指せます。
上まぶたについても、眼瞼下垂手術で上方に眼が開くことで、目尻の切開部分が縦に広がります。
目尻切開をされる方に、注意していただきたいポイント
一つ目は、通常目尻にあるものが、目尻切開した部分には無くなると言う事です。
上下眼瞼の瞼縁の形状をよく見てみると、まつ毛の生えている部分の内側の辺縁が淡いピンク色の帯のような形態をしているのが分かると思います。
この帯を、gray line(グレーライン) と言います。ピンクなのになぜグレーなのは不思議なところですが、おそらく英語のgrayには顔色などが白っぽいという意味もあるため、やや白っぽく見えるこの帯をそう呼んだのではないかと思います。(あくまで私の想像です。)
目尻切開では、この上下のグレーラインの交わる部分から外に向かって切開し、目尻を広げます。
当然、切開によって新しく出来た目尻にはこのグレーラインが存在しませんし、まつ毛も生えません。
ただし、これはそれほど目立つものではなく、治療を受けたご自分でも気付かない事もよくあります。
でも、この事を知らずに手術して、後でまつ毛の無い目尻にショックを受けないように、あらかじめ知って頂いておいた方が良いと思います。
さらに付け加えると、このグレーラインがある部分と無い部分の境界に小さな角が出来る事があります。
この角が気になる方は、後日CO2レーザーと言う皮膚を蒸散させるレーザー(黒子をを取る際などにも使用します)でこの部分を削ってなだらかにします。
もう一つの注意点は、元の目尻の状態や切開の程度によっては、目尻の結膜が見える事がある事です。
元々、目頭と違って目尻側では赤い粘膜(結膜)は見えていないのが普通の状態です。これが目尻切開後に、絶えず露出している状態になる事があります。
これには大きく分けて二つのパターンがあります。
一つは、目尻ポケットの大きい方に手術を行った際におこります。このタイプに目尻切開を行うと、白目と目尻の皮膚の間にすき間ができ、斜めから見た時などに、この隙間から赤い結膜が見える事があります。
もう一つは、隠れている白眼が小さく目尻切開の適応が無い方や、隠れている白目部分以上に切開して無理に目尻を広げた場合に良く見られる症状です。この場合、切開して広げた部分に結膜が不自然に露出した状態になります。
これも僅かであれば気になりませんが、度が過ぎるとちょっと異様な雰囲気の目尻になってしまうので要注意です。
何事も過ぎたるは及ばざるが如しですね。