何を減らせば小顔に見える? PART2~頬の小顔治療
頬の小顔治療~ボツリヌス菌注射
頬の小顔治療で最も手軽なのはボツリヌス菌注射です。ボツリヌス菌を注射すると咬筋が委縮し小さくなるという治療ですが、ボツリヌス菌自体には直接筋肉を小さくする効果はありません。
既にご存じな方も多いとは思いますが、ここで改めてボツリヌス菌で筋肉が委縮する原理をお話しします。ボツリヌス菌が産生する毒素から作られる薬剤ですが、この薬剤には筋肉を弛緩させる(ゆるんだ状態にする)ことを目的としています。この作用の原理を専門的に説明すると、「神経筋接合部でアセチルコリンの放出を妨げる事によって神経終末における神経伝達を阻害し、筋肉を弛緩させる。」という事になります。
もう少し簡単に言えば、咬筋にボツリヌス菌を注入すると、神経を伝ってやってきた「咬筋を動かしなさい」という脳からの指令が筋肉に伝わらなくなり、これによってボツリヌス菌が効いている咬筋が動かなくなるという事です。動かなくなったからといって咬筋がいきなり小さくなるわけではありませんが、筋肉は使わないと徐々に衰えて委縮してきます。これは、病気や交通事故などで数週間ベッド上生活を続けるだけで足が非常に細くなってしまう事などでも分かります。
つまり、ボツリヌス菌は「筋肉の動きを弱めることで、筋肉を衰えさせて委縮させる薬剤」です。ですから、ボツリヌス菌を注射して顔が小さくなったと確認できるまでに1カ月ほどのタイムラグがあります。
これとは逆にボツリヌス菌の薬剤としての効果が消えたからといって、いきなり顔は元の大きさには戻りません。ボツリヌス菌の効果は6カ月ほど続くのですが、効果が切れて筋肉が動き出すことによってそこから1カ月くらいかけて徐々にボリュームが戻ってきます。
つまり、ボツリヌス菌の効き始めと効果の消失にそれぞれタイムラグがあります。ということは、良い状態で維持していこうとすれば、完全に戻ってから再注入するのでは遅いということになります。ボツリヌス菌の効果が切れると、まだ筋肉自体のボリュームは戻っていなくても、奥歯で噛みしめた時に咬筋の動きが大きく感じられるようになります。このタイミングでボツリヌス菌を注入すると、頬のサイズが元に戻ることなく維持できます。
前回お見せしたCT画像を見ていただくと分かりますが、咬筋は顔の筋肉の中では、側頭筋などと並んで最もボリュームの大きな筋肉の一つです。
ですから、このボツリヌス菌注入は手軽な割に多くの方に効果が表れやすい治療です。
特に、エラの骨(下顎角)がそれほど外に張りだしていないにもかかわらず後方のフェイスラインが大きい方、奥歯を強く噛みしめると顔がホームベース型に見えるタイプ方などは咬筋のボリュームが非常に大きいため、ボツリヌス菌のみでも効果があります。
もう一つ、ボツリヌス菌という薬剤の注意点をお話しすると、ボツリヌス菌はあくまで神経筋接合部という神経の終末に働くため、咬筋全体の動きを一度に止めてしまうものではないという事があります。ですから、ボツリヌス菌が効いているからといって全く咬筋が動かなくなるということはありません。
特に咬筋の大きな方は、一回のボツリヌス菌注入で動かなくできる筋肉量にも限界があります。ある程度までは注入するボツリヌス菌の量に依存して効果も上がりますが、ある一定レベルを超えるとそれ以上は一度にたくさん注入したからと言って効果に差が出なくなります。
実際ヴェリテクリニックでは咬筋にボツリヌス菌を注入する際、100単位というかなり多い量を一度に注入していますが、これでもすべての方で全く咬筋が動かなくなるレベルではありません。
最近は、こういった咬筋のボリュームが大きい方に対して、時間差でボツリヌス菌を注入するという治療を行っています。ボツリヌス菌の効果がまだ十分残っている時期(3か月目くらい)に次の注入を行うことで事でさらなる委縮を目指せます。
頬の小顔治療~咬筋切除
もう一つの咬筋に対する治療に筋肉を切除する治療、つまり咬筋切除があります。
口腔内からアプローチし、咬筋を直接切って取り除く術式です。エラの骨切りの際に一緒に行う事が多い治療ですが、単独で行う事もあります。
ボツリヌス菌のように繰り返す必要が無いという点では優位な治療ですが、欠点もあります。
筋肉は、藁束のように筋繊維が束状になって出来ています。
咬筋切除では、咬筋をすべて取ってしまう事は無く、藁束から藁を抜き取っていくように少しずつ間引くように切除していきます。
この時、偏った取り方をしてしまったり、皮膚表面に近い筋肉を大きく間引いてしまうと、フェイスラインが不自然に見えたり、奥歯をかみしめた時などに皮膚表面に不自然な凹凸が出来てしまいます。
自然な形態に見えるように細心の注意を払って切除しても、残った筋肉が再度発達する事によって次第に凸凹になってきたりする可能性もあります。そういう意味ではとても厄介な治療です。
また、近くに顔面神経の下顎縁枝という口元を下方に動かす神経が走行しているため、乱暴に咬筋を切除をするとこれを損傷する可能性があります。
もちろん丁寧な手術を行えば直接損傷することはありませんが、神経は非常にデリケートなので咬筋を引っ張るだけでも一時的に麻痺してしまう可能性があります。
最近はボツリヌス菌治療だけでも繰り返していけば、だんだん戻りにくい状態になって持続するので、リスクを考えると咬筋に対する治療はボツリヌス菌を続けるのが無難かもしれません。
頬の小顔治療~脂肪吸引
小顔に見えるポイントの一つが輪郭のなめらかさであるというお話をしたことがあると思います。ごつごつした骨格や凸凹した輪郭は実際の大きさ以上に顔を大きく見せます。逆にスムースなフェイスラインは顔を小さく見せます。
そういう意味では、バランスを考えずに部分的にフェイスラインのボリュームを減らすことで、却って顔が大きく見えてしまう事もありえるという事です。
頬でこのような事がもっとも起こ易いのが、脂肪吸引に代表される脂肪のボリュームを減らす治療です。
これを考えるために顔の骨格に注目してみましょう。(サカモト君に登場してもらいます。)
PART1で脂肪が最も多いのは、頬のやや前方であるというお話をしました。骸骨を見ると分かるのですが、この部分は骨格の構造としては最も凹んでいる場所の一つです。
同じように凹んでいる場所にこめかみがありますが、実際、両方とも病気や加齢でやつれてくると凹んできやすい場所です。
頬の真ん中はどうして骨格的に凹んでいるのでしょうか。
これはこの部分が、頬骨と下顎角(エラ)とオトガイ(顎)という三つの隆起した骨に囲まれているからです。
つまり、この頬の中心部は三つの山に囲まれた盆地のような場所という事になります。
この盆地を軟部組織と呼ばれる脂肪や筋肉で埋めているわけです。埋めるものが少なければ、当然実際の頬も凹んで見えます。
軟部組織の量がそれなりにあっても、それ以上にこの三つの山が高ければ結果として凹んで見えることもあります。
女性より男性に頬がこけて見える方が多いのは、骨格がしっかりしている、つまり三つの山が高いことに起因していると言って良いと思います。
軟部組織の中でも、特に脂肪が多い方はこの盆地が平野を通り越して丘になります。
脂肪吸引の適応となるのはこのタイプです。こういった方でも、吸引することで小顔に見えるのは丘が平野になるところまでです。それ以上に脂肪を吸引しすぎで凹んでしまうと、その結果、周りの山が目立ってしまうことになります。
つまり頬骨やエラが却って大きく見えてしまいます。輪郭的にもなめらかさが無くなり、ごつごつとした印象に見えてしまうため、始めにお話しした通り効果が半減してしまいます。
脂肪吸引の適応の有無を見分ける簡単な方法があります。
これは、まず頬骨の真ん中と下顎角(エラ)とオトガイの角を結んだ三角形で出来る面をイメージします。この面から頬が明らかに外側にはみ出している方は、脂肪吸引の良い適応になります。
はみ出していない方が脂肪吸引を行うと、頬が窪んでしまいます。下半分ははみ出しているけど上半分ははみ出していないという方であれば、下側だけ吸引する方が無難です。(上半分、つまり頬骨のすぐ下の脂肪を吸引することで頬骨の張り出しが目立ってしまう事は少なくありません。)
多少凹むくらいは顔がシャープに見えて良いという考え方もありますが、頬は年齢とともにこけて老け顔になる方が多いため、吸引しすぎると将来的に困るかもしれません。