耳つくり
以前に私が行っていた手術についてのお話です
私の東大時代の上司が獨協大学形成外科の教授になられて赴任されているものですから、その手術のお手伝いに行ってきました。当時、多い時で週に1回東大で、それ以降は月に1度程度、独協医大にお手伝いに行く日々が続いておりました。
独協医科大学は栃木県にあるものですから、非常に遠かったのですが、やはりお世話になった上司への恩返しの意味と、それ以上に小耳症(もともと耳が非常に小さい状態で生まれてきてしまう状態のことをいいます。通常肋軟骨という軟骨を胸からとってきて、耳状に細工を施し、耳を作る治療をしていきます)という先天奇形を持って生まれてきた子供たちに耳を作ることができる喜びにほだされ、ずっと通っていました。
専門医をとる前は、美容も含めてさまざまな手術を大学でも担当してきたのですが、ある時から上司のライフワークである耳つくりを手伝いはじめ、その後は大学病院にいく頻度も減ったことも手伝って、もっぱら大学では耳職人となってしまいました。独協医大の手術室の看護師さんたちは、「この先生は月に一回耳だけ手伝いに来て、何をしているんだろう?」と思われていたかもしれません(^^;)。独協で美容もはじめる際には、またお手伝いできる幅も広がると思うのですが(また、栃木県まで通う頻度が増えることになりますね。。。)、当時は謎の耳職人でした。
小耳症は、生まれつき耳が小さい以外に多少下あごが未発達という状態が合併していることが多いのですが、逆にいうとそれ以上の障害はほぼ無いことが多い疾患です。知能も正常ですし(賢い子も多いです)、そのほかの機能にはまったく問題ありません。ただ、耳を作るためには胸からの軟骨をそれなりにとってこないと格好のよい耳が作れないものですから、肋骨・肋軟骨がある程度きちんと発達するまで(おおむね胸囲が60センチ以上を目安としています。10歳前後が治療開始時期となります)、成長を待たなければいけません。また、自前の耳は成長とともに発育をとげますが、作った耳は残念ながら(中顔面の発育に合わせてやや縦方向には延びるといわれていますが)発育しないので、そういう意味でも反対側の耳がある程度の大きさにならないと手術ができません。これも10歳を超えると大人の耳の9割以上の大きさになるといわれていることから、大体10歳~12歳くらいで耳を作っていきます。この間、いじめられたり、めがねやマスクがかけられなかったり、とさまざま不都合はあるようです。。。
上でお話したように、耳は肋軟骨を耳の皮膚に埋めて作っていきます。美容でも特に鼻先はシリコンプロテーゼでは長持ちしないので、自家組織を使うのと同じ原理です。なんといっても、一生ものの耳ですから。よく、L型プロテーゼに軟骨をかぶせているクリニックも見かけますが、これも実は非常に危険です。縫い付けても、どんなに固定しても数年の間にL形プロテーゼは移動していくからです。
さて、話を戻して、耳は軟骨の六番、七番、八番、という三本の軟骨を傷をつけないようになるべく長くとってきて(実は、私これは名人です。4センチくらいの皮膚切除から一時間ちょっとで三本すべて採取してしまいます。なんて、普通の人に自慢してもまったくわかりませんね^^;。ちなみに美容でもたまに肋軟骨を使うときがあるので、この技術は役に立っています)、それをなるべく耳らしく細工をして側頭部の皮下に埋めて耳をつくります。最後に耳が出来上がったときは、周囲の看護師さんや麻酔の先生も「おー!」といってくれるので、これは、形を作る外科医であってよかったと思える至高の瞬間かも知れません(^^)。
ただ、実は繊細につくればいいというものではなく、何十年と経つと若干でも軟骨は溶けていってしまいます。10歳で耳をつくったとして、本来は60年以上持ってもらわないと困るものですから、なるべくかっこよい耳に見えるように、かつ繊細過ぎないようにつくらなければいけません。
本当はお写真を見せたいのですが、それはプライバシーの侵害になってしまうので、申しわけありません。ただ、耳つくりは一回の手術では完成しません。皮膚を細工する過程で、一度に耳の形を作って、かつマスクやめがねがかけられるように起こすのは、今のところ不可能なのです。まずは耳の形のみを作り、半年を待って、耳を起こしていきます。続きは、また機会がありましたら書きますね(^^)。