フェイスリフト
フェイスリフトは頬のたるんだ皮膚を引き上げる手術です。この手術が行われるようになったのは50年も前の話です。1970年代には顔の皮膚の下にある筋膜 (SMAS) を引き上げる手術法が報告されました。
そして、21世紀になり、顔の皮膚や筋膜を顔の土台に固定している靱帯を使ったリガメント法が始まりました。リガメント法はこれまで行われてきたフェイスリフトよりも引き上げ結果が良く、長持ちすると考えられています。それはなぜでしょうか?そのわけを理解するためには、まずリガメントとは何なのか?を理解する必要があります。
リガメントの役割を理解すると、リガメント法はこれまでのフェイスリフト手術とどう違うのか、また、どうしてリガメントを処理しなければならないのかと言うことが分かってきます。そして、リガメント法がこれまでのフェイスリフトに比べてフェイスラインを強く引き上げることができ、リフト変化も長く続くことが分かってくると思います。
外見美へのこだわりと私の基準 目次
加齢とフェイスラインの関係
年をとると垂れ下がってくる顔の肉というのは、顔の表面を覆っている皮膚とそのしたにある脂肪です。この皮膚と脂肪は顔の骨や噛むときに働く筋肉(咬筋と側頭筋)や耳下腺といった組織の上に張りついています。
これらの皮膚や脂肪に覆われている組織は固くて年をとっても垂れ下がることはありません。顔の皮膚は土台となる固い組織に均一な強さでくっついているわけではありません。
リガメント(靱帯)と呼ばれる線維組織がちょうど貝柱のように顔の皮膚を何ヶ所かで土台の組織に強くくっつけています。
このリガメントの分布は耳下腺の前縁と咬筋の前縁と頬骨の前方外側と限られたところに限局しています。この部分の皮膚は年をとってもあまり垂れ下がってきません。
しかし、リガメントのない部分の皮膚は土台となる組織との癒着が弱いため垂れ下がりやすくなっています。たとえば、耳下腺と咬筋の間の皮膚は咬筋部のリガメントに向かって垂れ下がってきます。
結果として、咬筋前縁の部分は凹みとなります。また、咬筋よりさらに前方の皮膚は下顎骨のリガメントに向かって垂れ下がり、下顎骨のリガメントの部分の皮膚は凹みとなります。
このように若い時は滑らかだったフェイスラインが加齢によってでこぼこしてきます。
フェイスリフト術
フェイスリフト術は垂れ下がった顔の皮膚を引き延ばす手術です。傷跡を隠しやすくするために耳の前で皮膚を切開します。
そこから頬に向かって皮膚の下を剥離します。3センチも剥離すると耳下腺部のリガメントは切断されます。
この時点で皮膚を引っ張り上げると咬筋部のリガメントがあるためにそれ以上前方のたるみを引き延ばすことができません。
フェイスリフトを希望される方が気にされているのは咬筋部より前方の口元に近い部分のたるみです。したがって、咬筋部のリガメントを残したままリフトを行っても本当に改善したいたるみは改善できません。
そこで、SMASと呼ばれる筋膜の下をさらに前方まで剥離して咬筋部のリガメントを切断します。
そうしてから、剥離した筋膜を引き上げると口元の横のたるみまで引き延ばすことができます。フェイスリフトで十分な結果を出すためにはこのリガメントの切断が大切です。
リフト変化を強める
もう一つリフトの変化を強めるのに大切なことは、できるだけ改善したいたるみに近づいて組織を引っ張ることです。
というのは、皮膚や筋膜には弾性線維というものがふくまれています。言うなればストレッチ素材の布のようなものです。
耳のすぐ前で皮膚や筋膜を引っ張っても、耳の前の皮膚や筋膜が伸びるだけで、口元のたるみまで引き上げる力が伝わりません。
もっと口元に近い部分の皮膚を引っ張れば、口元のたるみに十分な力が伝わります。だからといって、口元のすぐ横に傷を作るわけには生きません。
そこで、皮膚は耳のすぐ前で切開しますが、筋膜は耳から3㎝前方で切開します。そして、筋膜の下を前方に向かって剥離し、咬筋部のリガメントを切断します。
筋膜の端は耳の前より3㎝口元に近づいていますから、筋膜の端を引き上げますと、耳の前で引き上げるのに比べて強い力で口元のたるみを引き上げることができます。
「バッカルファット」の処理
さて、SMASと呼ばれる筋膜の下を剥離して咬筋部のリガメントを切断しますと、バッカルファットとよばれる脂肪の塊があります。
これは、口元横の皮膚と口の裏側の粘膜の間にある柔らかい脂肪です。病気でやつれて頬がこけるというのはこのバッカルファットが萎縮するためです。
さて、バッカルファットは顔のたるみとどのように関係しているのでしょうか?バッカルファットに何らかの操作を加えることによって、フェイスリフトの結果をより良くすることができるのでしょうか?
これまでいろいろな手術方法がフェイスリフトとして報告されてきました。
皮膚のみを切除して引きあげる術式や耳のすぐ前で筋膜を引き上げる方法に比べると、リガメントを切断して耳から3㎝離れたところで筋膜を引き上げるフェイスリフト手術は、フェイスラインの引き上げが可能で、長持ちします。
しかし、この手術方法を用いても、口元の横にふくらみが残ることがあります。
バッカルファットはちょうどこの口の横のふくらみに相当する部分に存在します。
したがって、フェイスリフトでリガメントを切断したときにはみ出してくるバッカルファットを引き上げれば、口元の横のふくらみを改善できるのではないかと考え、実際に行ってみました。
バッカルファットを包んでいる薄い膜を破って、その中の柔らかい脂肪を顔の横の頬骨(頬骨弓)の下にある凹んだ部分に縫いつけました。
その結果分かったことは、バッカルファットを移動したことによって頬骨(頬骨弓)の下の凹みにふくらみができます。
凹みが埋まるのはいいのですが、バッカルファットがどうしても丸い塊として見えてしまいます。
このふくらみは自然に目立たなくなることもありましたが、ステロイド注射やメソセラピーでふくらみを小さくしなければならないこともありました。
一方、口元の横のふくらみには期待したような改善が認められませんでした。
というわけで、バッカルファットをリフトするというのは、口元のふくらみの改善のためにも、頬の凹みを改善するためにも、好ましい手術方法ではないというのが私の意見です。