超音波は強い味方!?
エコー
先日、よく行くバーでたまに見かける男性から、奥さんが妊娠中であるという話をお聞きしました。
「予定日が近いので飲んでいても落ち着かない」
と言いながら結構な量のお酒を飲んでいましたが、その際スマホに保存してある胎児の超音波(エコー)写真を見せていただきました。
私が研修医時代に産婦人科をローテートしていた際には、外来で毎日のようにエコー検査をさせられていましたが、その時代のものよりかなり機械が良くなっていて、赤ちゃんの表情が分かるくらい鮮明でした。
本当に嬉しそうにその写真を眺めている彼を見ながら、外来でエコーの画像を妊婦さんにお見せすると、みなさん本当に嬉しそうな表情をされていたことを思い出しました。
そして、エコー検査って本当に優れた検査法だなとあらためて実感しました。
せっかくなのでこの検査のどこが優れているのかをお話ししてみたいと思います。
今日は美容に関係ない話なのかなと思っていらっしゃる方は、ご安心ください。
後で必ず関係してきますので、ちょっと我慢してお付き合いください。
超音波は人間の耳には聞こえない高い周波数の音波で、一定方向に強く放射され直進性が高いという性質があります。
これを利用して体内に向かって超音波を発信し、そこから返ってくるエコー(反射波)を受信し、コンピュータ処理で画像化して診断するのが超音波(エコー)検査です。
この検査はX線検査のように放射線被爆の心配がなく、検査を受ける人の苦痛もなく安全です。
そのため、先ほどのお話のように、胎児の診察にも用いられています。
さらに良いのは、機械がコンパクトで持ち運びも簡単なことです。
最近は、ちょっと大きめのスマホぐらいのハンディーサイズまで存在します。
こんな簡便で小さく安全なのに、体のごく浅い層から奥深くまで調べられるのですから、本当にありがたい機械です。
もちろん、欠点がないわけではなく、脳などの骨に覆われた組織は原則見ることができませんし、肺などの空気の多い部分を調べるのも苦手です。
それでも、血管や心臓、肝臓や腎臓といった腹部の臓器から手足の筋肉や乳房にいたるまで、体のかなりの部分を検査できる優れものです。
ここからが本題ですが、じつは私のホームグラウンドであるヴェリテクリニック名古屋にも超音波検査機があります。
ハンディータイプとはいかず、サイズはやや大きめですが、その分充実した機能を兼ね備えています。
「美容外科でどうしてエコーが必要なの?」
と思われる方は少なくないと思いますし、実際この機会を置いている美容外科は少ないと思います。
でも、これが意外に役立っています。
もちろん、心臓や内臓の検査をすることはありません。
美容外科は、見た目を変える治療を行っている科ですので、もっと体の浅い部分をこれで調べています。
具体的にいえば、皮膚や、皮下脂肪、筋肉、そしてそこに注入された異物などです。
用いるプローブ(探触子:超音波を発する装置)も、体表に近いところを調べる専用のものを用います。
ちなみにこれは顔をエコーで調べている写真ですが、このように調べたい部分にセリーを塗ってプローブを当てるだけなので本当に手軽です。
では、具体的に例をあげていきます。
一つは、乳房の検査です。
乳房といっても、乳がんの検査ではなく、主に豊胸に関連した検査です。
これだけでも、かなりいろいろな状況で使えます。
ざっと羅列するとこんな感じです。
1.豊胸術の術式(乳腺下、筋膜下、大胸筋下)の適応を判断する材料として、エコーで皮下脂肪や乳腺、大胸筋の厚みを計測する。
2.被膜拘縮(豊胸術の術後にバストが硬くなる反応)の程度や状態を評価
3.脂肪注入やヒアルロン酸注入後にできるしこりの有無やサイズ、個数の評価
4.人工乳腺の破損や劣化の有無のチェック
まだまだありますが、ここに挙げたものだけでも、エコー有るのと無いのでは、その後の治療に対する安心感が大きく変わってくると思います。
では、具体的な画像を見てみましょう。
まずは人工乳腺による豊胸術の術後エコーです。
ちなみに、エコーの見方について簡単に説明しておくと、上が表面側で下に行くほど深い層になります。
今回出てくる画像では、左横にでているメモリ(小さい点)一つが1センチになります。
黒いおおきな塊が人工乳腺(バック)です。
その上方に見える黒と白の線がシェル(シリコンを包む袋)と被膜になります。
この画像では、この線が薄く非常になめらかですので、正常な状態と診断できます。
被膜拘縮を起こした症例では、この部分が厚くそしてグニャグニャと波打ったように見えます。
人工乳腺のエコー
次は、ヒアルロン酸による豊胸術の画像です。
たくさんの黒く抜けた塊が確認できると思いますが、これがすべてヒアルロン酸の入っているところです。
この方は、他院で注入されたヒアルロン酸を取られたいと御相談にいらっしゃいました。
この場合にも、エコーがあれば、画像で確認しながらヒアルロン酸を安全に抜き取ることができます。
実際、この方については、エコーガイド下に一つ一つのスペースを穿刺(針を刺すこと)し、ヒアルロン酸を抜き取りました。どうしても抜けない部分にはヒアルロン酸分解酵素を注入しました。
エコーは皮下脂肪の評価にも使えます。
脂肪吸引の適応や目的を判断する際、通常はその部分をつまんで厚みを確認します。
もちろんそれだけで十分という考え方もできますが、特に頬や顎下などは、つまんだ厚みのどこまでが皮下脂肪であるか判断に迷うことも少なくありません。
術前、かなり皮下脂肪がたくさん付いていると判断して手術に臨んだ場合にも、実際は思ったより脂肪が少なく結果もいまひとつなんてことがあります。
こういった時にも、エコーさえあれば、皮下脂肪の厚みをあらかじめ調べることができるので、手術後の結果のシミュレーションや適応の有無を術前にお伝えできます。
今回出ている画像には、皮下脂肪の厚みの具体的な数字は出ていませんが、これを0.1ミリ単位で計測することもできるので、治療前後の正確な評価にも使用できます。
最近はボトックスでエラやふくらはぎを細くする治療が流行っていますが、この治療の評価にもエコーが使えます。
筋肉は力を入れることで肥大しますが、ボトックスを注射した筋肉には力が入らなくなります。
この状態がしばらく続くと、筋肉自体が萎縮し、通常時の筋肉のサイズも小さくなります。
これがボトックスによる小顔治療の仕組みですが、事前にエコーでこの部分の筋肉の厚みを計測することで、適応を判断する参考になります。
また、ボトックスを注射した一ヶ月くらい後に再度計測することで、さらに正確に評価できます。
それ以外にも、以前に挿入されたシリコンや注入された異物をチェックすることもできますし、感染の有無や程度のチェックが出来ることもあります。
美容外科では、治療そのものが重視されがちですが、ほかの医療同様、診断も非常に大切であると思います。
より良い治療を行うために、より正確な診断が重要であるということです。
エコーはそれに大いに役立つ検査であると思います。
脂肪吸引やボトックスでの小顔治療を迷われている方、豊胸術お考えの方や、以前受けた手術の結果が思わしくなく再手術をお考えの方、海外で注入した異物で悩まれている方など、ぜひご相談にいらしてください。
今回はいつもにも増してちょっと堅苦しいお話になってしまいました。
画像もエコーの写真ばかりで、単調になってしまいましたね。
ですから、ついでと言ってはなんですが、おまけのお話を一つ
先ほど話に出た頬の脂肪ですが、最近は脂肪吸引よりもずっと手軽な脂肪溶解注射という薬の治療が増えてきました。
この治療の欠点は、脂肪吸引のように一回で大きな変化が出るものではなく、何度か繰り返さなければいけないことや、繰り返し治療をしていっても、脂肪吸引レベルの効果が出にくいことでした。
しかし、最近の脂肪溶解注射は一回の治療で見た目に明らかな変化が出ることも少なくありません。
さらに、これを繰り返すことで脂肪吸引と同等の結果となる方もいらっしゃいます。