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鼻翼基部

名古屋院 李 院長 プロフィールはこちら

地盤沈下のお話

今、世界中で地盤沈下やそれによる地面の陥没が深刻な問題になっているみたいです。

先日、テレビでそれに関する特集番組を見ました。

その原因の多くは農業用水や工業用水を確保するために行っている地下水のくみ上げにあるようです。

少しずつ沈下していくケースがほとんどですが、ある日突然大きく沈下することもあるようです。

今住んでいる家がある日突然沈下して傾く様を想像すると怖くなりますね。

今日のテーマはそこまで怖いものではありませんが、同じ地盤沈下のお話です。

地盤沈下といっても、土地や家のことではなく、もちろんお顔のお話です。

お顔で地盤沈下が問題となるパーツはどこでしょうか。

地盤沈下というからには、本来平坦なところに建っているべきものが、それより沈み込んでいるということになります。

如何ですか。

何か思い当たる顔のパーツはありますか。

答えは鼻翼です。正確には鼻翼の付け根です。

この部分を「鼻翼基部」と呼びますが、中顔面の骨格の発育の問題などで、ここが顔に埋もれるように沈み込んでいる方がいらっしゃいます。

土地の地盤沈下のようにだんだん沈んでいくという訳ではなく、もともとの骨格や成長過程で沈んで見えるようになっているだけなので、ちょっと意味が違うのかもしれません。

でも、鼻翼基部の地盤沈下も、地面の地盤沈下同様、お顔にとってはちょっと問題です。

では、何が問題なのか具体的に考えてみましょう。

まず、この部分が沈み込んでいると法令線が深く見えます。

若いうちから法令線が目立つ方は、たるみの問題よりこのことに原因がある可能性があります。

また、この沈み込みによって相対的に口元が前に出て見えることもあります。

さらにこれはあくまで印象の問題ですが、鼻柱基部が陥没していると何となく野卑な、もしくはちょっと意地悪そうな印象に見えてしまうことが少なくありません。

ですから、鼻柱基部の沈み込みがゆるやかになると、それまでよりちょっと上品でやさしい口元になります。

ちなみに韓国では、そういった理由もあってこの手術のことを「貴族手術」と呼ぶそうです。

貴族が本当に上品な顔をしているのかどうかは別にして、ちょっと面白い呼び方ですね。

さて、この鼻翼基部の凹みはどうしたら緩和できるのでしょうか。

単純に考えて、埋まりこんでいる鼻翼を押し上げるために、鼻翼の下に何かを入れるとよさそうです。

実際その通りで、この治療のために、鼻翼基部の付け根にヒアルロン酸や脂肪、軟骨、シリコンといった様々なものを入れます。

一番簡単な方法はヒアルロン酸などのフィラー(注入材)です。

でも、ヒアルロン酸自体とても軟らかいゲル状の素材なので、鼻唇溝の凹みは埋めることが出来ても、鼻翼自体を持ち上げることは困難です。

最近では、架橋構造(ヒアルロン酸分子同士の結びつき)が強い、硬くしっかりしたヒアルロン酸もあり、これまでのヒアルロン酸に比べればかなりしっかりと鼻翼を押し上げることが出来ます。

ただし、鼻翼は鼻筋や上唇鼻翼挙筋などの筋肉の影響で絶えず動く場所であるため、その影響で次第に注入したヒアルロン酸が周囲に押しやられてしまい、なかなか効果が持続しません。

脂肪も同じ理由で、鼻翼を押し上げる力が固形物に比べると弱く、またほかの部位に注入した場合より吸収されやすい傾向にあります。

鼻翼基部を持ち上げられず鼻唇溝だけが膨らむのでは、法令線のしわのケアにはなっても鼻翼基部の地盤沈下の変化にはなりません。

本当の意味で変化させるためには、やはりしっかりとした材料で鼻翼基部自体を持ちあげる必要があります。

そのために一般的に使用しているのはシリコンプロテーゼやゴアテックス、耳介軟骨などです。

このうち、耳介軟骨は、自家組織という安心感はありますが、両側の鼻翼基部から鼻唇溝にかけてを全体に持ち上げようとすると、けっこうなボリュームが必要になり、その確保が大変です。

とはいえ、この手術のために大きな軟骨が採取できる肋軟骨を使うのはちょっとやりすぎです。

耳介軟骨でも、両側の耳介から採取すればけっこうなボリュームになるので何とかなりますが、後述するように人工物でも手術できる場所なので、なんとなく勿体ない気がしてしまいます。

鼻中隔延長や鼻尖形成など、自家組織でないと難しい鼻の手術は他にあるので、美容外科医としては、そのために残しておきたいと考えてしまいます。(ただのおせっかいかもしれませんが。)

私自身はシリコンプロテーゼをよく使用しています。

以前はシリコンブロックから削り出して作っていたのですが、最近は鼻翼基部専用のプロテーゼがあり、それも多様な形とサイズが揃ってるので、その中からその方にあったものを選んで使用しています。

もちろん、さらにぴったり合うように形の微調整はします。

鼻腔内から入れることも可能ですが、主には口腔内から入れています。

歯茎のちょっと上方の粘膜をほんの少し切開すれば挿入できます。

粘膜は伸びるので大きな切開は必要なく、結構なサイズのプロテーゼを入れる場合でも切るのはせいぜい1センチくらいです。

この手術のポイントは、鼻唇溝だけでなく鼻翼直下までスペースを確保し、鼻翼基部をプロテーゼで押し上げることです。

先ほどもお話しした通り、鼻翼の外に入れるのでは、法令線のケアにはなっても、鼻翼基部の陥没の修正にはなりません。

それには、正確な剥離と術直後の固定が必要になります。

そのためにプロテーゼを上顎骨にスクリューで固定する方法もあるのですが、そこまでしなくても、周囲の癒着と被膜形成によってプロテーゼが安定するまでの一定期間、内と外から固定すれば十分であると考えています。

最後にこの手術の欠点(リスク)についてお話ししておきたいと思います。

その一つは、鼻翼がプロテーゼで押し上げられる際に、外側に広がって見えてしまうことがあることです。

また、それほど多くはありませんが、鼻翼自体のふくらみ(丸み)が強調されてしまうこともあります。

それ以外にも、鼻翼周囲の筋肉の動きが制限され、笑った際などの表情に多少のぎこちなさを感じることもあります。

表情については時間とともに、そのぎこちなさが緩和することが多いのですが、前者の二つについては何らかの対策が必要です。

具体的には、外に広がることに対しては、左右の鼻翼を引き寄せるように鼻翼の中に糸をかけます。

また、鼻翼自体のふくらみに対しては、場合によっては鼻翼縮小や鼻中隔延長が必要になることもあります。

ただし、こういった治療を行いたくない場合、最悪、プロテーゼを抜去してしまえば少なくとも元の状態には戻ります。(できる限り、避けたい事態ですが。)

こういった事態を避けるため、カウンセリングの段階でシミュレーションソフトなどを用いて、できる限り詳細に、術後に起こりえる形状の変化についてはお伝えするようにしています。(鼻翼自体の硬さや基部の内部の状態など様々な条件で結果が変わるため、予測が難しい部分もありますが。)

すこしマニアックな手術ですが、適応がある方に行うと本当に雰囲気がよくなり、とても喜んでいただけます。

一度ご相談にいらしてみませんか。